大阪地方裁判所 昭和42年(ワ)899号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔判決理由〕一、先ず、原告の被告訂正申立(注「井上勇を被告として損害賠償請求をなしたことは原告の思い違いであるので被告を国と訂正する」旨の申立を指す)につき考えるに、およそ当事者の表示の訂正は確定された当事者の同一性を害しない範囲において許されるもので、甲を被告とした訴において被告を別人格者乙に変更することはもはや当事者の表示の訂正としては許されないものと解するのを相当とする。そして当事者の確定は訴状の表示の全趣旨により決すべく、今これを本件についてみるに、本件訴状請求原因中には「憲法一七条および国家賠償法一条一項に基き国家すなわち法務大臣に対し損害賠償請求する」旨の記載部分があるが、他方当事者の表示欄には被告として本判決表示のとおり「大阪刑務所勤務看守被告井上勇」と記載され、更に請求原因欄中の「被告井上勇」又は単に「被告」との記載並にその指名人は当事者の表示にあるとおり井上勇と解するの外なく、これを国又はその他の別人格者を指すものと解する余地がないので被告は井上勇個人と決する外ない。そうだとすると右被告井上に国家公務員である「大阪刑務所勤務看守」なる肩書が付されていてもそれは右被告が特定の国家公務員たる身分を有するものであることを示すに止り、国を被告としたものでないというべく、これを国に訂正することは人格の同一性を害すること明らかで当事者の訂正としては許されないものという外ない。
二、しからば右訂正申立は任意的当事者(被告)の変更の申立として許される余地はないかにつき考えるに、行政事件訴訟法第一五条の如く被告を誤つた訴につき被告を変更することを許す旨の明文ある場合は格別、本件のような通常の民事訴訟法においてこれを許すことは明文規定を欠き、しかも確定された当事者間に係属する訴訟手続の安定を害し、不充分な調査に基く濫訴を助長することにもなりかねないからむしろ許されないと解するを相当とする。(増田幸次郎 杉本昭一 古川正孝)